■ラストシーンは見ていて恥ずかしくなる?
――先ほど、「『海門決戦』では無名をたくさん出したい」とお話ありましたが、それにあたってとくにこだわった部分はありますか?
荒木:生駒との恋愛的な関係をもう1段進めることでした。それが最もお客さんが望むものであり、僕ら自身が描くべきものだろうと。
――そういった意味では、ラストの無名と生駒のシーンに驚いたファンの方も多いと思います。企画当初から描こうと思っていたのでしょうか。
荒木:初めはそうではなかったかもしれないです。でも、構成の大河内(一楼)さんとプロットを練っていく段階で、わりと早めに固まりましたね。
「ここまで行くべきだ!」と大河内さんからアドバイスがあって、僕も「そっか! ……そうだな!」と。覚悟を決めた後は、むしろ大いに楽しんで描きました(笑)。
――美樹本さんはラストシーンを見ていかがでしたか?
美樹本:さすがにこの歳になると、真正面から見るのがちょっと恥ずかしいと言いますか……(笑)。意味もなく照れてしまう感じはありました。
荒木:僕も制作中、そのシーンを見るたびに、「そろそろ来るな……!」と恥ずかしくなっていました(笑)。でも「恥ずかしいな」と自分で思ってしまうフィルムのほうが、えてして良い作品だったりしますので。これまでやらなかった世界に踏み出した証拠ですから。
■ジャケットイラストで意識した髪の色
――美樹本さんが描き下ろしたBlu-ray&DVDのジャケットイラストについてもお聞きできればと思います。
荒木:僕が直接伝えたわけではないですが、通常の版権イラストと同じように「このキャラクターが映っている内容にしてください」とアニプレックスさんの方からオーダーが出ていたと思われます。
絵そのものは美樹本さんのアイデアです。僕はラフをもらって「このときの生駒の銃には銃剣がついています」など、設定との整合性を確認するぐらいでした。
――ジャケットイラストで、美樹本さんがとくにこだわった部分はありますか?
美樹本:本編を見たなかで自分が「いい!」と思った印象的な場面をなるべく入れ込もうと思いました。あと、江原さんがデザインしたキャラクターを描かせてもらえる機会はめったにないので、それを描かせてもらえる役得は感じました。
荒木:『海門決戦』のゲストキャラクターたちは江原さんが1からデザインしたので、美樹本さんがそのキャラたちを描くのはこのジャケットが初めてだったんです。
――描いてみて難しかったキャラクターはいましたか?
美樹本:もともと他の人が作ったキャラクターを描くのは嫌いではないので、違和感なく描けました。
ただ、なんとなく景之への思い込みみたいなものがあって。ジャケットに描いたシーンは、本編では景之が黒髪なんです。なぜか白髪のイメージがあったので最初は真っ白にしてしまって。
――ラストのイメージが強かったのでしょうか。
美樹本:そうだと思います。
荒木:「本編だとこの時点では黒髪なんです」と、こちらからお伝えして。黒髪バージョンと、白と黒の中間バージョンを用意してくれたので、後者を選びました。たしかに白いほうがきれいなんですけどね。
美樹本:本編で黒髪のシーンは、背景がオレンジや赤系の色でコントラストが効いていてよかったのですが、ジャケットの背景は青だったのでそうすると黒髪だと埋没してしまう。それで白と黒の中間の色にさせてもらいました。
――ちなみに、ジャケットの背景を青にしたのは?
美樹本:TVシリーズをふくめてこれまでは赤のイメージだったので、『海門決戦』ではイメージをガラッと変えたいなと。
荒木:言われてみると、『海門決戦』公開時のポスターも青系にしていましたね。今までは赤黒い方向性のものが多かったので、差別化のために青白系でいこう、と決めました。寒い温度感を出したくて。
荒木:そもそも劇中の時間軸を冬にしたこと自体が、TVシリーズとの差別化のためです。それまでは夏をイメージした赤黒い色味のフィルムだったので、色を変えるために冬を選びました。そうすればTVシリーズでは描けなかったキャラクターの表情も描けますし、季節ごとにキャラクターの衣装チェンジがあったほうが視聴者の方にとってお得感がありますから。まあ、アニメの続編を作る際の判断としては、極めて普通だと思います。
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