「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」迷い道にある“繊細な感情”と“鋭い痛み”―【藤津亮太のアニメの門V 第98回】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」迷い道にある“繊細な感情”と“鋭い痛み”―【藤津亮太のアニメの門V 第98回】

『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』はとても繊細な物語だ。若者なら心のどこかに抱えている細やかな感情が、物語の要所に織り込まれ、若いということが不器用と同義であることを、思い出させる。

連載 藤津亮太のアニメの門V
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舞台となるのが主にスタジオと立希の部屋で、動きも少ないカットを積み上げていく前半。後半は練習にこなかった立希を、愛音と燈が学校まで向かいに来る展開で、日の暮れた学校の中で、逃げる立希を愛音が追いかける。キャラクターが走り回る動きある展開が、前半と明確なコントラストにになっている。そこでは前半で溜め込んだ感情が、走るというアクションを通じて表出されている。  

続く第7話「今日のライブが終わっても」は、この第6話のようなメリハリをもっと強くつけて、映像の語り口でもって中盤の山場を作っている。  
ついに訪れた初ライブ。前半は控え室にいる愛音たち5人を追う内容。部屋の2カ所に設置された定点カメラを中心にしつつ、机の上の小型カメラを思わせるアングルも取り混ぜながら映像は進む。NHKの「100カメ」のようなノリを想像してもらうとわかりやすいだろう。こうしたドキュメンタリー風のカメラから、ライブ前の緊張した「時間」が浮かび上がってくる。この時間を感じさせる上では、意味のあるようなないような、おかしさも滲ませる様々な会話も大きな役割を果たしている。  

これが後半のライブシーンは、一転して、各人の頑張りを見せるバストショット、複数人を画面に収めてステージの空気感を伝えるダッチアングル、各演奏者の間を追いかけるカメラ移動などを駆使し、ライブの高揚感を伝える。1曲目の歌い出しがなかなか上手くいかず微妙な空気から始まった演奏が、途中で燈にスイッチが入ったことで、ぐっとグルーヴが生まれ、それが観客へと伝わっていく様子が、うまく表現されている。  

第6話も第7話も、脚本の絵解きにとどまらず、映像言語を巧みに駆使することで、登場人物たちの「感情の総体」を伝えることに成功していた。  
しかし第7話の初ライブの成功は、彼女たちにまた新たなピンチを招くことになる。それは第7話ラストそよが、それまで隠してきた思いを露わにすることから始まる。成功が最大のピンチを招くという展開の技術的な巧みさもさることながら、この禍福が反転する展開は本作が「みんなでひとつになる」ことを描くのではなく、「ひとつになろうとすればするほど、互いの違いが際立つ物語」であることを際立てる。  

作中で断片的に描かれてきたように、立希、燈、そよに豊川祥子と若葉睦を加えた5人は、かつてCRYCHICというバンドを組んでいたが、これが解散してしまった。燈はだから「解散しないバンド」というものに執着するし、立希は燈が再び傷つくようなことにはしたくないと思っている。そしてそよは「もう一度CRYCHICができないか」と考えている。  

愛音が無邪気に始めてしまった新しいバンドの向こう側に、CRYCHICという“亡霊”が浮かび上がってくるのが、1クール目後半からの展開で、ここからさらにこの“亡霊”との向き合い方が重要になっていくと思わせるのが、現在の展開だ。
本作は「重めのドラマをやりたい」とプロデュース・サイドからの依頼があってスタートした企画だという(https://natalie.mu/comic/pp/mygo02)。

ここ15年ぐらいの間、「重い展開を入れると視聴者が離れる」という話を取材などでよく聞く。もちろん例外も多々あるのだが、これが「考え方のベース。リスクの想定」として一般化していることは感じられる。ここにゲーム由来などの「キャラクターをあまり成長・変化させないほうがいい」要素が加わると、ドラマ性はどうしても薄くならざるを得ない。アニメがキャラクターグッズ化してしまうといってもいいだろう。そういう意味では今回の「重め」をという提案は、シリーズが順調に展開しているからこその挑戦ということはできるだろう。  

しかし第6話、第7話の出来栄え。そして第8話から第10話へと進む、燈を軸にした展開は「重め」だからこその劇的なおもしろさがあった。愛音と立希の間にいる燈が、自分の言葉で語る(歌う)様子は、「うったえる」が縮まって「歌」という言葉になったという俗説が、リアリティをもって響いてくる強さがあった。  

そういう意味で本作は「重さ」という以上に、きめ細かな感情のアンサンブルが生む「繊細さ」こそが先に感じられる作品となっている。タイトルにもなっているキーワード「迷子」が登場するのは第5話。これが彼女たちのバンド名になるのが第12話「It’s my go!!!!!」。この5人の迷い道を見ていると、青春時代というのは、阿久悠が『青春時代』(76年)の歌詞に、道に迷い胸に刺さることばかりと書いたころと、なんにも変わってないのだなとも思う。
この痛みには、時代を超えた普遍性があるのだ。


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